No.11: *イベント告知*この夏どんな本を読みましたか?
投稿者 : 杉本 拓未
投稿日 : 2023/10/02
本づくりメルマガをご登録の皆様 こんにちは。 読み書きラボ3期生の杉本拓未です。 少しずつ秋の気配を感じられる時期になりましたね。 みなさまはお元気でお過ごしでしょうか。 今回のメルマガでは、私が夏休みに読んだ小説の読書感想文を自分なりにお届けします。 メルマガの最後にはおおきな告知もあるので、最後まで読んでいただけたらうれしいです🎁 今回わたしが紹介する小説は、**三浦しをん**『**天国旅行**』です。 7つの作品から構成された短編集なのですが、この小説の特色として挙げられることは、すべてのお話に共通しているテーマが「**心中**」であることです。 樹海で自殺を試みるサラリーマンのお話、焼身自殺した憧れの先輩の謎を先輩の彼女と解き明かすお話、事故死した彼女の幽霊と同棲し始めるお話など、いろんなお話が詰まっていますが、強調したいのは、作者が決して命を軽んじていない、ということです。 自らの臨死や、身近な人の死を経験して、ひとり残った語り手はどのように生きるのかという、**生と死の狭間に立たされた人間の感情が緻密に描かれています**。 このお話で自死を選ぶ人は、「死」を**救済**や何かの**腹いせ**、あるいは**愛の証明**と捉えています。 自死を選ぶ人にとっては生の状態であることよりも「死」であることを望んでいるのだから、死が救済になることはある意味あたりまえです。 ですが、残された人間には救いはありません。 この作品はそうした救いのなさで生きる人間を描いた小説であり、わたしたちもその救われないうちのひとりなのです。 このお話は必ずしもすべてがハッピーエンドではありません。 作品によっては、読了後の爽快感よりも、明かされないままの謎に頭を悩まされることにもなるでしょう。 「死人に口なし」という言葉通り、残された人は既にいない人の心境を探り、心にわだかまりを抱えたまま生きていくことになるからです。 そして、このお話には、生きることは美しいとか、死ぬことは醜いとか、どこかで聞いたことのあるようなメッセージは込められていません。 つまり、このお話が取り上げている **「死」はただの「死」であり、それ以上でもそれ以下ない** 、ということです。 それでも、「明日も生きてみようかな」とおもうような、一縷の光のようななにかを作者は灯しています。 作者は「生」の究極的な対比である「死」から、わたしたちが生きる世界のうつくしさを描いているのです。 > 他人からすると「どうして」と思えるようなことで、ひとは死を選ぶときもある。 > 苦しみはいつでも、相対的なものではない。 > (『天国旅行』三浦しをん) ここまではネタバレを避けて作品の紹介をしてきましたが、ここからはこの作品のお話のひとつである『SINK』を抜き出して、詳細な魅力をお届けしようとおもいます。 『SINK』は、20年前の一家心中の生き残りで、家族への罪悪感を抱えたまま、人間に無関心で冷めた人生を送っている「悦也」という男のお話です。 > 弟のことも両親のことも、あのときは頭になかった。 > 生きたかった。 > それだけだ。 > ひたすらに海面を目指した、執着と執念の塊。 > 身勝手で残酷なのは自分だ。 > 意地汚く生きのびたのだから、もはや死ぬまで生きるしかない。 > (『天国旅行』三浦しをん) 悦也は親からの愛情を受けずに育ったためにおそらく愛着障害を抱えており、他人に求めるものがなにもありません。 そのため、交際は長続きせず、唯一の友人である悠助ですら「鬱陶しい」といい、自ら遠ざけてしまいます。 色で表すなら灰色な、そんな悦也の人生がうつくしくおもえてしまうのは、悦也がひとりで縋り付く「生」が、著者の描く「死」が凄まじく壮絶で、わたしには到底手に負えないもののように見えるからでしょうか。 この小説で描かれる生と死の狭間には、**ただ生きているだけでは生まれない不思議な強い力**がはたらいていると感じます。 その力こそがこの小説の本旨であり、「死」をテーマにした著者の覚悟の現れであるようにもおもえます。 > 細かな泡が立ちのぼっていく。 > 白く光るそれらは、雪のようでも星のようでもある。 > あたりは暗く、凍えそうに静かだ。 > 無数の小さな水泡だけが、淡い輝きを放ち、天へ向かって何本もの細い線を描く。 > 手をのばしてもつかめない。 > 泡は連なりを崩してすりぬけ、なにごともなかったみたいに、揺らぎながらまた列を成して上方を目指す。 > (『天国旅行』三浦しをん) 悦也は車ごと飛び込んだ海の中、母親の手を蹴り飛ばして生き残ってしまったことに罪悪感を抱えていました。 しかし、悦也はある女の助言により、母親は悦也を車の外に押し出すために手を伸ばしたのではないか、と考え直し、記憶をあらためて新しい物語を紡ぐことを決意します。 > まぶたの裏に火花の残像が散る。 > いや、ちがう。 > 細かな泡だ。 > 水面から差すひとすじの光を受け、それらは闇のなかできらめいている。 > (『天国旅行』三浦しをん) タイトル通り沈むばかりだった悦也の人生から、すこしずつ「泡」という一縷の光が浮き出しはじめる、そんなお話でした。 みなさまも、いまあたり前にすごしている「生」について、天国へ旅行して考えてみるのはいかがでしょうか? # おしらせ① 前橋市に本店を置く書店の「**煥乎堂**」にて、**柴田ゼミと合同でイベントを開催**させていただくことになりました!👏🙌 書店の棚に、テーマごとにひとりひとり選書した本をPOPといっしょに展示させていただきます! 読み書きラボ3期生からも3名が参加していますよ そして、今回紹介した『天国旅行』も展示させていただく予定なので、内容が気になる! という方はぜひお手に取っていただけると幸いです。 展示期間は10月14日(土)~11月19日(日)です。みなさまのご来店をお待ちしております~💌 # おしらせ② 読み書きラボ3期生の**公式SNS**を開設しました~!🕊 〇 Instagram https://instagram.com/hci_lab_3 〇 Twitter https://x.com/HCI_Lab_3 これからプロジェクトの活動や、メンバーの日常風景を発信していく予定なので、ぜひぜひフォローよろしくお願いします!(杉本は中の人なので、反応がおおいとうれしくなります💨) 煥乎堂で開催させていただくイベントも、詳細が決まり次第SNSでおつたえいたしますね~ 最後まで読んでいただきありがとうございました。 またね。 ********************* 読み書きラボ3期生 杉本 拓未 ひとこと:国立新美術館のテート美術館展 よかったです! ********************* <a class="button" href="https://forms.gle/YZfU9R9S7hRSTyuH8">メルマガ登録</a>